宇宙環境とは
宇宙環境
宇宙用材料や衛星システムは宇宙環境というきわめて厳しい特殊環境中で長期間にわたりその機能を発揮しなければなりません。宇宙環境は衛星軌道により大きく異なりますが、材料やシステムに影響を与える要因としては、微小重力、真空、温度、紫外線、放射線、プラズマ環境、中性ガス環境などが挙げられます。
ハッブル宇宙望遠鏡や宇宙ステーションなどの特殊な例を除いて、宇宙システムは一旦打ち上げられると一切のメインテナンスができないため、システムや材料が予定軌道の宇宙環境に十分な耐性を有するかどうかは打ち上げ以前に十分な検証が必要となります。打ち上げ前の評価・対策が不十分であると、実用システムであっても、想定外の事態に陥る場合があります。たとえば、図1に示したのは2001年に撮影された宇宙ステーションP6トラスの太陽電池パネル部分の写真です。展開後1年で太陽電池パネル端部のポリイミドが破断していることがわかります。これは原子状酸素によるエロージョンによるものですが、原始状酸素の影響は打ち上げ前にも懸念されていたため、その対策としてAlが両面コーティングされていましたが、コーティングが不十分であったため、破断に至った事例です。図2はハッブル宇宙望遠鏡の鏡筒を覆うFEPの写真です。打ち上げ後3年で大きな破断が確認されています。サービスミッションで破断部の補修が行われましたが、その3年後にも同一箇所付近での破断が確認され、FEPの耐宇宙環境性の問題が浮き彫りになっています。本事象ではサービスミッションで回収されたサンプルの試験が行われ、その結果、軌道上での3年の曝露により太陽指向面ではFEPの破断伸びが200%から0%に急減することが確認されました。この原因は太陽からの真空紫外線あるいは太陽フレアによる放射線・イオンによるものと考えられています。その他にも宇宙ステーションにおけるシャトルドッキング用レトロリフレクターのコーティング剥離なども観察されており、打ち上げ前の耐宇宙環境性試験が現在のレベルでは必ずしも満足できるレベルではないことが示されています。
このような材料学的な問題は、宇宙環境が単独あるいは複合的に作用して生じたものであり、これをどのように地上で再現し評価してゆくかが、宇宙機の信頼性を高め、寿命を延ばすには大きな問題となっています。
図1
図2